これまでの経緯と、この回答の位置づけ
7月からご一緒してきた流れの中で、今回のご相談がどこに当たるかを先に整理します
2026-07-01
初回打ち合わせ
院長・事務長・鑪様・三浦様と。ChatGPT/NotebookLMのデモ、Google Workspace/Microsoft 365の比較をご相談
2026-07-28
AI活用研修 Day1
ChatGPTを中心に20名で実習。「AIに入れてよい情報・入れない情報」の信号機式ルール、部署別の「最初の1業務」
2026-08
ChatGPT for Work稼働/Workspace構築開始
院内でChatGPT for Workを活用開始。Google Workspaceはドメイン移管から整備中
2026-09-02
今回のご相談
Codexで塾のPDF自動化を実現 → 健診結果登録(受診者マスター登録・PDF紐付け)にも応用したい
2026-09-30 14:00
AI活用研修 Day2(Gemini中心)
Google Workspace環境で、Gemini/NotebookLMを実際に操作しながら。この自動化は本編では扱いません
📌 研修時の整理との関係: 7月の事前アンケートへの回答では、「健診システムへの入力」「健診データの入力・結果作成」は「当面AIに任せない・将来検討」 とお伝えしました。今回のご相談は、まさにその領域を一歩進める話です。ただし考え方は変えません。実際にはAIに患者情報を入れて運用している医療機関もあると承知していますが、私の立場ではおすすめしかねますので、「患者情報はAIに入れない」前提 でAIには「自動化の仕組みを作る」役だけを担ってもらう、というのがこの回答の骨格です。
🌱 鑪様の現在地: 6月30日のメールで「まずChatGPT+NotebookLMに慣れ、その先にAIエージェント(Codex等)の検証へ」と申し上げましたが、Codexで実際の自動化を回されている時点で、すでにその「先」の段階に入られています。だからこそ、次に必要なのは技術よりも「どこまでAIに見せるか」の線引き です。
ご質問への回答
先に結論を4行で。そのあと、それぞれを画面イメージ・実例つきで説明します
1
Codex等で、カルテ登録・PDF紐付けの自動化は技術的に可能か
可能です。 やることは「画面操作の自動化」で、塾のPDFでされたことと同じ種類です
2
要配慮個人情報を扱うとき、どんな仕組み・運用なら安全か
「本番でAIに患者情報を見せない」 前提で組むと、AIは作る時だけ、動かすのは院内PCの中、という形になります
3
生成AIを使うべきか、ローカルRPAにすべきか
両方使います。 生成AIは「RPAを作る係」、ローカルRPAは「本番で動かす係」
4
実現するなら、どんな構成・進め方が適切か
ダミーデータで台本 → AIにRPAを作らせる → テスト → 人が起動して確認 、の順に小さく
🔐 セキュリティをどこまで求めるかで、構成は3通りに分かれます。 この下の回答は「レベルA:完全ローカル」を基本に書いています。読み取りだけをCodexやGeminiに任せる「レベルB/C」との違いと選び方は、参考:セキュリティレベル別の構成案 → にまとめました。
01 技術的に可能か → 可能です
鑪様が塾の問題集でされた「画面を操作して、PDFを取り出す」自動化と、今回の「名簿を見て画面に入力する」「該当者を検索してPDFを添付する」自動化は、同じ種類の作業 です。まず、やりたいことを画面のイメージで整理します(実際の画面はお使いのカルテシステムで異なります。あくまでイメージです)。
カルテシステム ─ 受診者マスター登録
画面A:受診者の基本情報を登録する
受診者ID 2026-0912-001
氏名 (名簿の氏名)
生年月日 1985/04/12
性別 女
所属企業 ○○株式会社
部署 総務部
健診コース 定期健診A
クリア 登録
RPAがやること: 受診者名簿(Excel)を1行ずつ読み、緑の欄に自動入力して「登録」を押す。1人分が終わったら次の行へ。
カルテシステム ─ 受診者検索/ファイル添付
画面B:健診結果PDFを該当者に添付する
検索 受診者ID 2026-0912-001
該当者 (氏名)/定期健診A
📎 ファイル添付:2026-0912-001_健診結果.pdf を選択 → 保存
戻る 保存
RPAがやること: PDFのファイル名(受診者ID)で該当者を検索し、開いて「ファイル添付」→ PDFを選ぶ → 保存。全員分くり返す。
緑の欄=RPAが自動で入れるところ。黄色=氏名など、AIには見せずにRPAだけが扱うところ。
やり方は2つあります
やり方A
AIエージェントに画面を直接操作させる
Codexの「Computer Use」やChatGPTのエージェント機能のように、AIが自分でマウスとキーボードを動かして画面を操作する方法。2026年時点で実務に使えるレベルになっています。
手軽。たまに・少量の作業に向く
ただし画面の内容(患者情報)がクラウドのAIに送られる
毎回少しずつ違う動きをすることがある
やり方B(おすすめ)
AIに「自動操作の台本(RPA)」を作らせて、院内PCで動かす
Codexに「この画面を、この順番で操作して」と伝えてプログラム(RPA)を書いてもらい、できあがったプログラムだけを院内PCで動かす 方法。動く時にAIは関わりません。
本番で患者情報がPCの外に出ない
毎回同じ動き。記録も残る
道具はほぼ無料(Playwright、Power Automate Desktop など)
🏥 病院での実例: 企業からの定期健診の予約リスト1,829名分をシステムに登録する作業をRPA化して46時間削減(済生会熊本病院)。外部の検査機関から届く結果データを患者フォルダに格納し、電子カルテに紐付ける作業も、RPAの定番の使い方です。「カルテシステムの画面をRPAで操作する」こと自体は、すでに広く行われています。出典:RoboTANGO「医療業界のRPA導入 成功事例7選」/NTT東日本「RPAで自動化できる医療現場の業務5選」(下の参考リンク参照)
02 安全に扱うには → この前提なら、守ることは3つ
健診結果は「要配慮個人情報」という、法律で特に慎重な扱いが求められる情報で、研修の信号機式ルールでは「赤:AIに入れない」 に当たります。難しく聞こえますが、やり方B(AIが作ったRPAを院内で動かす) を選べば、次の3つを守るだけで大枠の安全は確保できます。
ルール1 本番の患者情報は、院内PCの外に出さない 名簿・PDF・カルテの画面を、ChatGPTやClaudeなどクラウドのAIに送らない。RPAはPCの中だけで動く ので、これは自然に守れます。
ルール2 AIに作らせる時は、ダミーデータで 「山田太郎/1985-04-12/定期健診A」のような架空の名簿と、架空の健診結果PDF を数件作り、それでCodexに台本を作らせ、テストします。本物はAIに見せません。
ルール3 登録の確定は人。記録を残す RPAは担当者が起動し、終わったら結果一覧(何件登録・何件添付・エラー) を人が確認して完了。いつ・誰が・何件やったかのログを残しておくと、あとで説明を求められても安心です。
🔐 セキュリティレベル別の構成案(A 完全ローカル/B Codex/C Gemini)を図解で見る →
AIに渡さないもの:実名の書類・番号と名前の対応表・ログイン情報
特に気をつけたいポイント
無料版・ブラウザ版のChatGPT/Claudeに、氏名入りのPDFや名簿をそのまま貼らない(入力した内容がAIの学習に使われる設定になっていることがあります)
やり方A(AIに直接操作させる)を患者情報の画面で使わない。画面がそのままクラウドに送られるほか、Webページに仕込まれた指示にAIが従ってしまう「間接プロンプトインジェクション」というリスクもあります
電子カルテのログインID・パスワードは、AIツールに一切渡さない(先日の週刊AIニュースでも触れた一線と同じ考え方です)
PDFのファイル名 に氏名を入れない(受診者IDや管理番号にする)。RPAの検索にも都合がよく、万一の漏れにも強くなります
RPAの実行ログ・エラー画面のスクリーンショットにも患者情報が写ります。保存場所を決め、外に出さない
もしAIに本物のPDFを「読ませたく」なったら(書式がバラバラで読み取りをAIに頼みたい場合)
💡
「仮名化」ってなに? 氏名を「山田さん」のまま扱うのではなく、「No.001」のような管理番号に一時的に置き換えることです。研修の信号機でいう「黄:名前・日付を伏せて加工すればOK」 の手順そのものです。番号と本名の対応表さえ厳重に管理しておけば、AIには番号だけを見せて、あとから人間の手で本来の受診者に戻せます。
実名は金庫へ、番号だけAIへ。これが「仮名化」の基本です
Excelなどで「管理番号(No.001, No.002…)と氏名の対応表 」を1つ作る。これは鑪様の手元だけで管理し、絶対に外に出さない
PDFの氏名・生年月日が書かれた部分を黒塗り(マスキング)するか、その部分だけ管理番号に書き換えたコピーを用意する(検査数値などの中身はそのまま)
氏名を隠したPDF(管理番号だけのバージョン)を、学習に使われない法人契約のAIに渡して、読み取り・下書きをしてもらう
AIの下書きを目で見て確認し、対応表を見ながら本来の受診者に戻して登録する
作業に使った一時ファイル(黒塗り前のPDFや対応表のコピーなど)は、処理が終わったら削除する
AIが扱う範囲(仮名化ずみ)
人が確定する範囲
健診結果PDF
(氏名あり)
仮名化
(氏名→仮ID)
生成AI
(抽出・下書き)
人の確認
(確定)
カルテ登録
(氏名を復元)
健診結果PDFは氏名を仮IDに置き換えてからAIに渡し、AIが作った下書きは必ず人が確認・確定してから登録します。
ローカル(院内PCの中)でPDFを読み取る場合の目安 ─ 必要なスペックと精度
🔎 最初に確認:そのPDFは「文字が埋め込まれている」か「画像(スキャン)」か。 検診機関がシステムから出力したPDFなら文字が埋め込まれていることが多く、その場合はOCR不要で文字の読み取り精度はほぼ100% 、普通の事務用PCで動きます(PDFを開いて文字をドラッグ選択できれば埋め込み型です)。スキャンPDFの場合だけ、下の表のOCRやローカルAIが必要になります。
やり方 必要なPC 精度の目安 速さ・向き不向き
A. 文字埋め込みPDFをそのまま読む(pdfplumber等・AI不要) 普通の事務用PC(メモリ8GB〜) ほぼ100% (文字は正確。表の位置合わせだけ工夫が要る)1ページ1秒未満。まずこれで済むか確認
B. 日本語OCR(YomiToku/PaddleOCR)スキャンPDF向け・AIモデルはPC内で完結 できればGPU付きPC(VRAM 6〜8GB〜)。CPUのみでも動くが数十倍遅い 印刷文字なら実用レベル。比較記事ではYomiTokuの文字誤り率0.22(Azure相当)、Tesseractは0.35で不向き。PaddleOCRは表・レイアウト認識が強い GPUで1ページ数秒。罫線が濃い帳票・手書きは苦手で、人の確認が前提
C. ローカルAI(画像も読める小型LLM)で項目を抜き出す例:Gemma 4/Qwen3.5-VL の 8〜30Bクラス VRAM 8GB→8Bクラス、16GB→20B、24GB→32B(RTX 4090/5090、または Mac 32〜64GB) 印刷帳票の数値抜き出しは6〜7割前後 という実測報告あり(原因は文書側の構造)。OCR+LLM補正の多段構成 で誤字を直す事例あり(24GB VRAM) 1ページ10〜30秒。書式がバラバラなPDFの「読み取り」を任せるのに向く。確定は人
D. クラウドの文書AI(参考)Google/Azure等・今回は仮名化が前提 不要 最高水準 (文字誤り率0.05)速い・安い。ただし患者情報を外に出すので、②の仮名化を挟む場合のみ
結論: ①まず「文字埋め込みPDFか」を確認(多くはそれで済み、AIもGPUも不要)。②スキャンPDFなら、VRAM 8〜12GBのGPU付きPC1台(例:RTX 4060 Ti 16GB、または Mac mini 32GB) で日本語OCRを回し、読み取り結果は必ず人が確認。③ローカルAIで項目抜き出しまで任せたい場合はVRAM 24GB(RTX 4090/5090)か Mac 64GB が目安で、精度は「下書き」として使う前提(最終確認は人)。いずれもPCの外にデータは出ません(レベルA に相当。GPUを買わずに精度を取りたい場合はレベルB/C)。
03 生成AIかローカルRPAか → 両方。役割が違います
「どちらか」ではなく、生成AIは「作る係」、ローカルRPAは「動かす係」 です。塾の自動化でも、Codexが作った仕組みが実際に動いていたはずです。それを「本番の患者情報にはAIを近づけない」形で組み直すだけ、とお考えください。
💡
「ローカルRPA」ってなに? 「毎回同じ手順を、決まった通りに自動で繰り返してくれるプログラム」のことで、PCの中だけで動きます。文章や画像の意味を判断するのは苦手ですが、決まった作業を正確に・何度でも同じように行うのが得意です。
AIは下書きまで、確認と確定は人。これが役割分担の基本です
今の手作業 やり方A:AIに直接操作させる やり方B:AIが作ったRPA(おすすめ)
患者情報の行き先 PCの中 クラウドのAIに送られる PCの中(AIは作る時だけ)
毎回同じ結果か 人によるブレ 少し変わることがある 同じ
速さ 1件 数分 1件 1〜2分 1件 数秒〜数十秒
記録 手で残す AI側のログ 実行ログが自動で残る
費用 人件費 AIの利用料 道具はほぼ無料。作る手間だけ
弱点 時間がかかる 患者情報の画面には不向き 画面が変わると直しが要る(AIに直させる)
向いている場面 ごく少量 たまに・少量・患者情報なし 毎月の定型作業(今回はこれ)
中島クリニックの環境で選ぶなら
より堅くするなら → A(完全ローカル)。 健診結果PDFが文字埋め込み型なら、読み取りにAIは要りません。Codexは「作る係」だけ
Workspace前提なら → C(Gemini)が標準。 院内で契約する Google Workspace の Gemini は、入力が学習に使われず、管理者がオン/オフでき、Workspaceの契約(データ処理条項)がそのまま適用 されます。読み取りだけGeminiに任せる形が、いま進めている方向と一番つながります(Vertex AIは「プログラムから呼ぶ」段階で検討)
Codexを読み取りに使うなら(B)。 Enterpriseプランなら入力は既定で学習に使われません。CodexはEnterpriseプランでご利用いただく前提です(既定で学習に使われません)
どの案でも共通: 読み取り結果の確定・登録は人+院内RPA。患者情報の画面をAIに直接操作させない
役割分担のまとめ。 PDFの体裁がバラバラで「読み取り」だけAIの力が要る場合は、②の仮名化を挟んでその部分だけ AIを使います。登録・添付という「確定作業」は、必ずRPA+人の確認で行います。
🔐 セキュリティレベル別の構成案(A 完全ローカル/B Codex/C Gemini)を図解で見る →
04 構成と進め方 → 全体像はこの1枚
セキュリティまで含めた「想定する仕組み」の全体像です。ポイントは点線の枠(院内PC)の中で全部が完結し、AIは枠の外で「作る時」だけ手伝う こと。
院内PC・院内ネットワーク(患者情報はここから出ない)
受診者名簿
(Excel/CSV)
健診結果PDF
(フォルダに保存)
自動操作スクリプト
(RPA・Codexが作成)
このPCの中だけで動く
カルテシステム
の画面
入力・添付
担当者が起動・最終確認
結果一覧をチェックしてOK
実行ログ
いつ・誰が・何件
Codex/Claude Code
作る時だけ使う(クラウド)
見せるのはダミーデータのみ
できあがったスクリプト
(プログラム)だけを持ち込む
画面が変わって動かなくなったら
ここに戻って直してもらう
おすすめの全体像(=「レベルA:完全ローカル」):AIは「作る時」だけ、動かすのは院内PCの中の自作RPA。本番の患者情報はクラウドに出ません。読み取りだけクラウドAIに任せるB/Cは構成案のページ へ。
進め方(5ステップ)
ダミーデータで「操作の台本」を作る :架空の名簿5件+架空の健診結果PDF5件を用意し、画面Aと画面Bを手で操作しながら「どの順番で・どこに・何を入れるか」を書き出す(スクリーンショットを貼るだけでOK)
Codexに台本を渡してRPAを作らせる :「この台本どおりに動くプログラムを作って」と頼む。道具はPython+Playwright(ブラウザ型のカルテなら)か、Power Automate Desktop(Windowsアプリ型なら)。どちらもAIが得意です
テスト :まずダミーデータで動かす → うまくいったら院内PCで本物を数件だけ 試す → 結果を目で確認
本番は人が起動・最終確認 :担当者がボタンを押して動かし、終わったら結果一覧(登録○件・添付○件・エラー○件)を確認して完了。エラー分だけ手で直す
運用ルールを1枚にまとめる :起動してよい人、ログの置き場所、画面が変わって動かなくなった時の直し方(ダミーデータでCodexに直させる)
進め方を、いまの予定に重ねると
9月(〜9/30) 台本づくり 架空の名簿5件+架空の健診結果PDF5件を用意し、画面A/Bの操作手順をスクショ付きで書き出す。PDFが文字埋め込み型かも確認
台本ができたら 道具と方針を決める Codexに「この台本どおりに動くプログラムを作りたい。道具は何がよい?」と聞くところから。ブラウザ型ならPlaywright、Windowsアプリ型ならPower Automate Desktopが定番。Day2はGemini中心で本編では扱いません
10月 Codexで作成・ダミーテスト 台本を渡してRPAを作らせ、架空データで動作確認。読み取りが要ればWorkspaceのGeminiで試す
11月〜 数件だけ本番→運用へ 院内PCで数件試し、結果を人が確認。継続サポートの定例ミーティングで「効果測定」として振り返る
小さく始めて育てていく。まずは架空データ5件から
①
ダミーデータで
台本を作る
②
Codexに頼んで
RPAを作る
③
ダミー→数件で
テスト
④
人が起動して
結果を確認
⑤
運用ルールを
1枚にまとめる
ダミーデータで台本を作り、AIにRPAを作らせ、数件のテストを経て、人が起動・確認する運用へ。
必要な道具と目安
道具 院内PC1台/Codex(お持ちのもの)/Playwright または Power Automate Desktop(いずれも無料)/ダミーデータ
期間の目安 台本づくり数日 → RPA作成1〜2週間 → テスト1〜2週間。 月1回の健診ラッシュ前に1周回すイメージ
まず最初にやること 架空の名簿とPDFを5件作る。これがあれば、Codexとの作業を今日から安全に始められます