セキュリティレベル別の構成案
参考までに。「AIに何を見せるか」でレベルが決まります。A(完全ローカル)/B(Codexをかませる)/C(Geminiをかませる)を図解で比較
このページに出てくる言葉(先に4つだけ)
- Vertex AI(バーテックスAI)= Googleの法人向けクラウド「Google Cloud」の中で、Gemini(GoogleのAI)を業務用に使うための窓口。同じGeminiでも、個人向けアプリや無料の「AI Studio」とは契約と扱いが別で、①入力したデータが学習に使われない、②処理する場所(東京など)を選べる、③会社として契約でき、請求・管理者・ログがつく。たとえるなら「個人のマイカー(無料アプリ)」と「会社契約の業務車両(Vertex AI)」の違いです。使うにはGoogle Cloudのアカウント(プロジェクト)と支払い設定が必要で、使った分だけの従量課金です。
- ZDR(ゼロデータ保持)= AI会社が、処理が終わったらプロンプト(送った内容)と回答をサーバーに残さない設定。申請して適用してもらうもので、適用前は「不正利用の監視のために最大30日保存」が一般的。
- Gemini for Workspace= 院内で契約するGoogle Workspace(Business/Enterprise)に含まれているGemini。Gmail・Docs・Driveの横にいる「Geminiに聞く」や、Geminiアプリ、NotebookLMがこれに当たります。個人のGoogleアカウントで使うGeminiとは契約が別で、入力データが学習に使われず、管理者が部署ごとにオン/オフできます。Day2(9/30)で実際に触る予定の道具です。
- DPA(データ処理契約)= AI会社との「あなたのデータをこう扱います(学習に使わない・保存しない等)」という契約書。院内で「なぜ安全と言えるのか」を説明するときの根拠になる書類。
完全ローカル
読み取りもPCの中で完結。外に出るデータはゼロ。
Codex(OpenAI)をかませる
読み取りだけをCodex/OpenAI APIに。仮名化+学習オフ+ZDRが条件。
Gemini(Google)をかませる
読み取りを院内契約のGoogle Workspace の Geminiに。仮名化した検査値だけを渡す。
鑪様の今のやり方(推測)と、院内に持ち込むときの変換
メールの内容(「Codexで、画面操作からPDF化・抽出までを自動化」)から推測すると、今のやり方は次のどちらかだと思います。どちらでも、院内に持ち込むときの考え方は同じです。
Codexに毎回ブラウザを操作させている
Codex App/CLIのComputer Use(または内蔵ブラウザ)で、塾サイトにログイン → 問題ページを開く → PDF化 → 中身を抽出、をCodexがその場で実行。
- 手軽だが、画面のスクリーンショット・ページの文字がOpenAIに送られる
- 塾の教材(本社に確認済み)なら問題なし
Codexに作らせたスクリプトが動いている
最初にCodexと一緒に「操作の台本」を作り、その後はできあがったスクリプト(Playwright等)が自動でログイン → PDF化 → 抽出を実行。
- 本番でOpenAIに送られるものはない
- 今回の「やり方B(回答ページ)」と同じ形
研修Day1の「安全度ピラミッド」との対応
Day1でお見せしたランク(SS ローカル・隔離環境/S 閉域・企業クラウド/A 組織管理された業務環境/B AIの法人向けプラン/C 個人・無料アカウント)に当てはめると、3案はこうなります。
| このページ | Day1のランク | 意味 |
|---|---|---|
| レベルA 完全ローカル | SS ローカル・隔離環境 | 入力が外に出ない。読み取りもPC内 |
| レベルC Workspace の Gemini | A 組織管理された業務環境 | 院内契約・管理者設定・学習不使用。追加契約なし |
| レベルC(発展)Vertex AI | S 閉域・企業クラウド | 東京リージョン・データ保持オフ・プログラムから呼ぶ |
| レベルB Codex(Business/API+ZDR) | B AIの法人向けプラン | 契約・設定を確認して使う |
| (使わない)Codex 個人プランのまま/画面を直接操作 | C 個人・無料アカウント | 研修でいう「シャドウAI」。患者情報では不可 |
入力ルールの信号機で言えば、健診結果は赤(入れない)、仮名化した検査値は黄(加工すればOK)、架空のダミーデータは緑です。3案とも「赤をAIに入れない」は共通です。
どれを選ぶか(3つの質問で決まります)
レベル A:完全ローカル
外に出るデータ:なし患者情報は院内PCの外に一切出ません。読み取りが必要なら、日本語OCR(YomiToku/PaddleOCR)や小型のローカルAI(Gemma 4/Qwen3.5-VL)をPC内で動かします。AI(Codex)は「RPAを作る時」にダミーデータで使うだけ。
良いところ
- 3省2ガイドラインの「外部委託・外部保存」の論点がほぼ消え、説明が最も簡単
- 契約・規約の確認が不要(道具はオープンソース)
- 月々の利用料がかからない
気をつけるところ
- スキャンPDFを読むならGPU付きPC(VRAM 8〜12GB〜、例:RTX 4060 Ti 16GB/Mac mini 32GB)が要る
- ローカルAIの項目抜き出し精度は6〜7割の「下書き」。人の確認が前提
- PC自体の管理(持ち出し禁止・暗号化・バックアップ)は自院の責任
Aで守ること(チェックリスト)
- RPA・OCR・AIは院内PCの中だけで動かす(クラウド送信の設定をオフに)
- Codexに見せるのはダミーデータだけ(実名の名簿・PDFを開かない)
- PCはBitLocker/FileVaultで暗号化し、持ち出し禁止
- RPAは担当者が起動、結果一覧を人が確認、ログをPC内に保存
関連(回答ページ):④ 仕組みの全体図と進め方(この図はレベルAそのものです)/② ローカルで読み取る場合の必要スペックと精度の目安表
レベル B:Codex(OpenAI)をかませる
外に出るデータ:仮名化した検査値のみ今お使いのCodex(OpenAI)を活かす案。ただし使い方が2つあり、安全性がまったく違います。B-1「Codexにカルテ画面を直接操作させる」は、画面のスクリーンショットや文字がOpenAIに送られるため患者情報の画面では使いません。おすすめはB-2「読み取りだけをCodex/APIに任せる」:氏名を管理番号に置き換えてから送り、戻ってきた結果を院内で実名に戻してRPAが登録します。信頼性は「どのプランで・どの設定で・どんな契約か」で決まります。
Bで「信頼性を担保する」条件(すべて満たす)
関連(回答ページ):② 仮名化の手順(氏名→管理番号)/③ AIと人の役割分担・3方式の比較表
- Enterpriseプランで使う:ChatGPT Enterprise(およびそのCodex)は入力・出力が既定で学習に使われません。医療向けにはBAA付きの ChatGPT for Healthcare もあります。※個人のPlus/Proを業務で使う場合は、設定>データコントロールの「モデルを改善する」と、Codex側の学習許可の2か所をオフにする必要があります
- 契約書(DPA)を保管:法人プラン・APIの「学習に使わない」条項が根拠になる。医療向けには ChatGPT for Healthcare(2026年1月発表・BAA付き)もある
- Codexの画面操作(Computer Use/内蔵ブラウザ)をカルテ画面で使わない:Codexの文脈に入ったスクリーンショット・文字はOpenAIに送られる。塾サイトの自動化ではOKでも、患者情報の画面ではNG
- 回答への 👍👎 フィードバックを押さない(押すとその会話全体が改善に使われ得る)
- ゼロデータ保持(ZDR)を申請(API利用時):既定では不正利用監視のため最大30日保存される。ZDR適用で処理後に残らない(2026年8月、ZDRを維持したまま監視する仕組みが発表)
- 仮名化してから送る:氏名・生年月日・住所を管理番号に置換。対応表はPC内
- データの保存場所:EnterpriseはデータレジデンシーをOption指定可。API単体は米国処理が基本なので、「学習・保存されない契約」を根拠にする(厚労省Q&Aの考え方)
- 送受信ログ(いつ・何件・どのモデル)を院内に残す
良いところ
- すでに使い慣れたCodexで、読み取りの台本も作れる(B-2は「Codexに読み取り用の小さなプログラムを書かせ、API経由で読ませる」形)
- 読み取り精度が高く、書式のバラバラなPDFに強い
- GPU PC不要。既存PCで動く。従量課金で月数百〜数千円規模
気をつけるところ
- Enterprise管理者は、Astraなど新モデルへのアクセスを初期状態でオフにできる。使い始めるときに管理者側の設定を確認
- Computer Useをカルテ画面で使うと、画面ごとOpenAIに送られる(B-1はNG)
- ZDRは申請制。承認までは30日保持が既定。国内保存にこだわるならEnterprise契約
レベル C:Gemini(Google)をかませる
外に出るデータ:仮名化した検査値のみ(東京リージョン)同じく読み取りだけをGoogleに任せる案で、Google Workspaceを前提にすると、追加契約なしに始められるのが最大の利点です。Workspace(Business/Enterprise)に含まれるGeminiは、入力したデータが学習に使われず、人のレビューもなく、Workspaceの契約(データ処理条項)がそのまま適用され、管理者が部署ごとにオン/オフできます。「プログラムから自動で呼ぶ」段階になったら、Google Cloud側のVertex AI(東京リージョン指定・データ保持オフ)に進みます。
Cで「信頼性を担保する」条件(すべて満たす)
関連(回答ページ):② 仮名化の手順(氏名→管理番号)/③ AIと人の役割分担・3方式の比較表
- 院内契約の Google Workspace の Gemini(Gemini アプリ/Driveの「Gemini に聞く」/NotebookLM)を使う。個人のGoogleアカウントや無料の Google AI Studio は学習に使われ、オプトアウトできないので不可。プログラムから自動で呼ぶ段階では Vertex AI(Google Cloud・有料)
- 学習に使われない:Workspace の Gemini は既定で学習・改善に使わず、人のレビューもない(Workspaceのデータ処理条項が適用)。Vertex AIも同様。契約書(DPA)を保管
- データ保持オフ(ゼロデータ保持)を設定。※Google検索グラウンディングを併用すると最大30日保持されるので使わない
- 管理者設定:管理コンソールで Gemini/NotebookLM を「使う部署だけ」オンにし、監査ログを残す。Vertex AI を使う場合はリージョンを東京(asia-northeast1)に固定する
なぜ東京か:厚労省Q&Aでは「学習に使われないことが契約で担保されていれば、サーバーが国内にある必要はない」とされており、海外リージョンでも直ちに違反ではありません。それでも東京を選ぶのは、①国内保存であれば3省2ガイドラインの「外部保存」について院内で説明しやすい ②万一の際に日本の法律・裁判所で扱える(2026年1月にGoogleは公的機関向けに準拠法を日本法・管轄を東京地裁とする規約改定を実施)③海外への越境移転にあたるかどうかの議論を避けられる、という3点からです。要は「技術要件」ではなく「院内・監督官庁に説明しやすくするため」の選択です。 - 仮名化してから送る:氏名・生年月日・住所を管理番号に置換。対応表はPC内
- 送受信ログ(いつ・何件・どのモデル)を院内に残す
良いところ
- 追加契約が要らない(Workspace Business/Enterpriseに含まれる)。管理者設定・契約が一本化できる
- Day2(9/30・Gemini研修)で皆さんが触るGemini/NotebookLMと同じ道具なので、院内に説明しやすい
- 読み取り精度が高く、GPU PC不要。Vertex AIなら国内(東京)で処理
気をつけるところ
- Workspaceのプランと管理者設定(Geminiのオン/オフ・DLP・監査ログ)を先に決める必要がある。調査レポートの「AI導入前チェックリスト」がそのまま使えます
- 個人Googleアカウント/無料AI Studioとの取り違えが最も多い事故。必ず院内のWorkspaceアカウントで
- Bと同じく、仮名化なしで送らない
3案の比較
| A 完全ローカル | B Codex(OpenAI) | C Gemini(Google) | |
|---|---|---|---|
| 外に出るデータ | なし | 仮名化した検査値 | 仮名化した検査値 |
| 学習に使われるか | 使われない | Enterprise/APIは既定で不使用(契約で担保) | Workspace の Gemini/Vertex AI は不使用(個人アカウント・無料版は使われる) |
| データの保存 | PC内のみ | ZDR申請で保持なし(既定は最大30日) | 保持オフ設定可(グラウンディング併用時は30日) |
| 保存・処理の場所 | 院内 | 米国が基本。Enterpriseでレジデンシー指定可 | Workspace契約の範囲(Vertex AIなら東京指定可) |
| 医療向けの枠組み | 不要 | ChatGPT for Healthcare(BAA) | Vertex AI/Workspace(BAA対象SKU) |
| 必要な機材 | スキャンPDFならGPU付きPC | 既存PC | 既存PC |
| 読み取り精度 | OCR:実用/ローカルAI:下書き(6〜7割) | 高い | 高い |
| 月々の費用 | なし(電気代) | 従量課金(数百〜数千円規模) | 従量課金(数百〜数千円規模) |
| 院内への説明のしやすさ | 最も簡単 | 契約書・ZDR証跡が要る | 契約書+東京リージョンで説明しやすい |
| 向いている場面 | まず始める/PDFが文字埋め込み型 | Codexを使い慣れている。Astraの進化で今後の主流になる可能性 | Workspace稼働後の本命(追加契約なし) |
- 実名のまま(仮名化せずに)クラウドAIに送る
- 無料版・個人向けプランを設定変更なしで業務に使う(ChatGPT無料/Plus/Pro、Google AI Studio無料)
- Codexの画面操作(Computer Use)でカルテ画面を触らせる(画面がOpenAIに送られる)
- 電子カルテのログインID・パスワードをAIツールに渡す
- AIの読み取り結果を人が確認せずにそのまま登録する
根拠にした資料
・主要AIモデルのデータ保持期間とZDRを一次情報で確認する(フューチャー技術ブログ) ─ 法人向けAPIは学習不使用が既定、不正利用監視で最大30日保持が多い
・OpenAI、ゼロデータ保持を維持する新安全技術(マイナビ 2026-08)
・OpenAIヘルプ:履歴をオンにしたまま学習を無効にするには/Enterprise privacy at OpenAI ─ Business/Enterprise/APIは既定で学習不使用、個人プランは既定オン。Codexは別設定
・OpenAI Codex App入門 ― Computer Use(Zenn)/Codex App 完全ガイド(Uravation) ─ Codexの文脈に入ったスクリーンショット・文字はOpenAIに送られる
・ChatGPT Enterprise and HIPAA: What a BAA Covers ─ ChatGPT for Healthcare(2026年1月)・データレジデンシー
・Vertex AI における Gemini API のデータ利用について(Zenn)/Gemini APIで学習させない設定方法 ─ 有料は学習不使用、無料AI Studioはオプトアウト不可、グラウンディング時30日保持
・Is Gemini HIPAA Compliant? 2026 Guide ─ Vertex AI/Workspace の BAA 対象
・Gemini AI features now included in Google Workspace subscriptions(Google公式)/Gemini for Google Workspace に関するよくある質問 ─ Business/Enterpriseに含まれる・学習に使わない・管理者がオン/オフ
・ChatGPT Business でのデータ共有とプライバシーの管理(OpenAI)/ChatGPT Business のシート管理 ─ Businessは学習不使用、2026-06-24以降のワークスペースはCodexシート追加不可
・厚労省ガイドライン第6.0版 Q&A ─ 「学習等のために保存されないことが契約で担保されていれば、サーバが国内法の適用を受けている必要はない」という考え方
・3省2ガイドラインとは(実務対応)
※各社のプラン名・設定名・保持期間は変わることがあります。契約前に必ず最新の規約・DPAをご確認ください(2026年9月3日時点の調査)。